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『べてるの家の「非」援助論』 浦河べてるの家 医学書院 2002年6月 東京

申し訳ないけれど、いわゆる典型的な「過疎の町」といえる北海道浦河。そこに精神障がい者の回復者クラブができた当初、住民は心配した。案の定、暴力・破壊行為、無銭飲食などで、連日の様にパトカーや救急車、消防車が駆けつける始末。しかし、それから25年。いつの間にかそのクラブは、社会福祉法人と有限会社から構成される、とても大きな共同体となり、精神障がいを抱えた人150人が住み、多種多様な活動を展開するようになった。そして今や年商1億円、年間見学者は2,000人を数え、過疎の町を支える一大地場産業となっている。それが、浦河べてるの家


『べてるの家の「非」援助論』では、その成功の秘密が余すところ無く書かれている。「悩みや苦労を取り戻そう」「安心してサボれる会社作り」など、そこにはユニークな理念やキャッチフレーズが満載されているのだが、その中でもキーワードとなるのが、言葉による表現だ。


「精神障がい害」とは、自己が他者の言葉で定義されてしまい、言葉を、自ら語る事を封じられた人々であると思い至ったソーシャルワーカーや精神科医、そして当事者たち。そこで長年試行錯誤を繰り返し、今では徹底的に当事者たちが、語り、書くようになっている。例えば「三度の飯よりミーティング」。「話し合う」ということは、お互いに支えあい、表現することの危機を乗り越える、大切な場であると考えられ、べてるの家では1ヶ月に100回ものミーティングが開かれている。


また、世間一般では忌むべき症状とされている幻覚妄想。普通なら一刻も早く薬の力で封じ込めなければと考えるところ、べてるでは、親しみを込めて「幻聴さん」と呼び、本人の友人であるかのように扱う。当事者はどんな幻聴さんがいるかを詳細に語り、様々なエピソードを披露する。そればかりか、奇想天外でユニークなものは年に一度の「幻覚&妄想大会」に出品され、表彰される。グランプリ受賞者は北海道新聞で記事にもなり、名誉も賞品も手にすることができる。


そして、「当事者研究」。例えば、感情のコントロールを失って暴力・破壊行為に及ぶ当事者が、自分のその状態を「爆発」と名付けて研究する。その内容は、研究の背景から目的、方法と続き、徐々に爆発のメカニズムが明らかにされ、結論として「爆発の有効活用」までを導き出す、本格的な研究論文である。もちろんそれを発表する機会も用意され、外部講演会などで発表することも多い。その様に、爆発してしまうという「辛さ」を外在化し、自己を再定義する試みは、言語を用いて理論だてた研究にすることで、普遍化される。社会に役立つ研究となるのである。

こうして、「語ることから回復が始まる」という伝統により、数冊の本や20本ものビデオを出版したべてるの家では、最初に始めた日高昆布の販売も併せて、全国各地で講演会を行なっている。入院しながら講演する当事者もいる。その数、年間100回以上。3日に1度は日本のどこかで、メンバー達の語りを聞くことができる。そんな講演に出かけて彼らの声に耳を傾け、私はこの本を読んだ。

小金井市立図書館には無いようだが、彼らの「語る事を取り戻す」歩みと、その苦労の道程で毎日生み出される言葉という宝を、良かったらあなたもぜひ。(IS)

べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章 (シリーズ・ケアをひらく)べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章 (シリーズ・ケアをひらく)
(2002/05)
浦河べてるの家

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